7つの分野融合研究が進行中

異なった分野間の融合的研究を促進するため,平成20 年10 月31 日(金)〜 11 月2 日(日)の3 日間にわたり,東北大学川渡共同セミナーセンターで研究教育推進会議「第1回生態適応コロキウム」を開催し,本GCOE で実施可能な共同研究の計画策定を行った。生態学・工学・経済学・薬学・農学など様々な分野の研究者が集まりグループに分かれ,各グループのファシリテーターを中心に具体的な共同研究の方向の探索や融合的研究の可能性,テーマについて議論した.現在, 下記の共同研究を展開している.

1.生態系の機能を利用した無エネルギー排水処理システム

自然の湿地における水質浄化原理に基づいて、エネルギーを使わずに水質浄化を行う人工湿地の有用性に関する研究。湿地植物の遺伝的多様性や、甲殻類や藻類も含めた生物群集の階層構造が、水質浄化能力に与える影響を明らかにする事を目的としている。

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2.生態系サービス評価システムの構築

社会・経済システムが生態系サービスに与える影響を、経済評価や数理モデリングの手法を使って定量的に評価するシステムを構築する。仙台市を例にとって、政策や経済活動、土地利用が、地域の生態系に及ぼす影響を、空間情報を用いた数値シミュレーションで明らかにする。

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3.農林畜産生態系における生物多様性が生態系機能の発揮に及ぼす影響

広大な敷地をもつ川渡フィールドにおいて、草地生態系(放牧地)、畜産環境系(汚水処理)、耕地生態系(水田)、森林生態系(苗畑)、流域系(流域全体)の5つの系を対象として大規模な野外操作実験を行ない、各系における生物多様性の違いが生態系機能の発揮に及ぼす影響を明らかにする。

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4.高CO2環境での植物の適応

分子生物学と植物生理学の手法を用いて、CO2濃度が高い環境で、高いCO2吸収能力や種子生産能力を示す遺伝子を探索し、環境変動化で優れたパフォーマンスを発揮する遺伝子型の作出を目指す。

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5.自然免疫抑制作用を用いた疾病制御・生息地が自然免疫の空間構造におよぼす影響

生物が本来備え持つ病気に対する抵抗性(自然免疫)に着目し、害虫の免疫機能を抑制する事による疾病制御の可能性を探る。また、自然免疫遺伝子と空間構造の関係を明らかにし、病害虫の拡大を防ぐ土地管理を提唱する。

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6.流動制御による湖の水質改善と生態系管理

富栄養化が深刻な問題となっている太湖フィールドにおいて、流動(波や流れ)が底質環境に与える影響を解明し、流動をコントロールする事で、湖の水質改善や水圏生態系の保全を目指す。

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7.沿岸環境における地球環境変動指標生物の査定と分布変動機構の解明

女川フィールドで、過去20数年にわたって蓄積されている海洋観測データや生物分布データを解析し、海洋環境の長期変動の指標となる生物を査定するとともに、それら指標生物の集団の動態を予測する。

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1.生態系の機能を利用した無エネルギー排水処理システム

 生態系の機能の活用事例のひとつとして東北大学生態適応グローバルCOE では,自然の湿地における水質浄化原理をもとに酸素フラックスを高めることで水質浄化機能を強化した人工湿地実験施設を設置した.本実験施設では、川渡野外実験フィールドセンターにおいて毎日約2トン発生する30 頭の乳牛に由来する汚水および雨天時に発生するパドックからの汚水を受け入れ,エネルギーを使わずに高度に浄化処理する工学的な実証研究を行うとともに,生態学的な視点より生物多様性と水質浄化機能の関係について検証する融合研究を行うことを計画している.本融合研究は生態系の水質浄化機能を工学的に活用した人工湿地技術に対し,これまで顧みられて来なかった生物や遺伝子の多様性による頑健性や応答性の違いといった新たな視点からの評価や検討を試みるものであり,生態系の機能を利用した無エネルギー汚水処理技術としての人工湿地の有用性をアピールするとともに,湿地植物の遺伝子の多様性が及ぼす水質浄化機能への影響および甲殻類や藻類を含めた生物群の階層構造の働きの解明をテーマとした融合研究を行うことを目的としている.

 図1に示されるように本実験施設は、5 つに分かれた総有効面積111m2 の人工湿地で構成され,汚水は5 つの人工湿地を循環することで浄化される仕組みである.各湿地はヨシを植栽した15 − 70cm 厚のろ過層で構成され,汚水の汚濁成分は、まず物理的なろ過・吸着によりろ過層内に捕捉され、次いでろ過層内でヨシ根圏の微生物群により生物学的に分解される(図2).ろ過層内を不飽和とする(水位をろ過層底部とする)ことで汚水の浸透に伴い空気が取り込まれるため、エネルギーを要する曝気操作等を行わずに好気的な分解が促進される.


図1.人工湿地の概略図


図2.人工湿地の構造

 本実験施設は2009 年3 月に完成し,汚水の流入を2009 年6 月から開始した.流入させた汚水の総量は2010 年2 月に800トンに達し,1日当たりの平均処理水量は3トンに及んでいる.このような自然な流下を利用した無エネンルギーシステムにより2009 年6月から12 月にかけて得られた水質浄化性能を以下に示す.9 月までのBOD 除去率は99% 以上を維持しており(図3),総窒素(TN)除去率は平均で90%以上を(図4),総リン除去率では98%以上を維持することができた( 図5). 10 月以降は気温や水温の低下に伴う植生や根圏の微生物群の活性低下により水質浄化性能が低下したが,それでもBOD 除去率は平均で93% 以上を維持しており,総窒素(TN)除去率は平均で40%以上を,総リン除去率では平均で89%以上となった.現場である川渡野外実験フィールドセンターは冬季の降雪量も多く,2009 年から2010 年にかけての厳冬期には70cm の積雪条件となったが,危惧された凍結等の問題も生じず厳冬期における無エネルギーでの人工湿地の稼動についても実証することができた(図6).このような実スケールでの実証研究のデモンストレーション効果は大きく,これまでに問い合わせに応じて9 回の見学・説明会を実施し,120 名以上の見学者が訪れている.

 このように,融合研究の現場となる無エネルギーでの高度な水質浄化機能を有する人工湿地を立ち上げることに成功した.植生や根圏微生物群の定着がより安定する2年目以降はより再現性が高いデータが得られる現場となると考えられ,2010 年4 月より工学分野と生態学分野を融合した以下の2つの融合研究が始まっている.本融合研究によってこれまで顧みられて来なかった生物や遺伝子の多様性による頑健性や応答性の違いといった新たな視点からの人工湿地技術の評価や改善が期待できる.


図6.夏季および冬季の人工湿地の様子

■ 融合研究の内容

  • 遺伝子が異なる6つのヨシ群落における生産性や水質浄化性能の違いから人工湿地をモデルとした人工生態系における遺伝子の多様性の役割を明らかにすることを試みる.
  • 人工湿地におけるミジンコや付着藻類までを含めた生物の階層構造の働きと水質浄化性能の関係より人工湿地をモデルとした人工生態系における種の多様性の役割を明らかにする.

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2.生態系サービス評価システムの構築

 生態系は多面的な機能を有し,そこから提供される様々な生態系サービスは”多次元的な財”として地域社会の発展に間接的あるいは直接的に貢献している.例えば,森林からは木材生産だけでなく,受粉サービスを行う蜂の生息域の提供,あるいは空間的な森林配置により制御される生物多様性確保など”多次元的な財”の供給源としての役割を果たしている.これら”多次元的な財”の供給レベルは生態系を構成する自然資源の時空間的な配置及びその利用形態・程度に依存しており,地域社会における様々な経済活動の影響を直接受けている.しかしながら,これらの生態系サービスは,その性質上,非市場財的に認識されているため,経済活動へのフィードバックが必ずしも可能にはなっておらず,その結果,直接的な経済活動を通したサービスの質・量の制御ができないのが現状である.例えば,森林における無計画な伐採は,受粉を助けるポリネーターの生息地を破壊し,受粉サービスを劣化させ,農作物生産の減少に繋がるが,それを制御するための伐採,あるいは土地利用の転換の抑制は未だ困難な状態である.

 このように生態系サービスは地域社会経済の基盤となるため,”適切な”資源管理により生態系サービスを維持することも同時に実現する必要がある.そのためには,まず直接的な生産物の副産物的な存在であったサービスを,経済システムを通して市場財として可視可的に認識する必要がある(図1).また,今後,生息地保全など様々な生態系サービスに関わる政策・計画が提案され,実施されることが予想されるが,その際,それらの政策が自然資源の利用形態・程度に与える影響,さらには生態系サービスの供給レベルに与える影響を的確に捉えることのできるフレームワーク,つまり,経済活動と生態系サービスの関係を定量的に把握し,制御できるシステムを用いた分析が必要になる.


図1:研究の概念図

 本研究では,生態学の最新の知見を基礎データベースとして用い,数理経済学による経済活動の定量的な評価,統計数理モデリングによる将来予測及び最適化理論による時空間配置最適化による複雑系管理システムの構築を行い,様々は社会・経済活動が生態系(自然資源)の利用および生態系サービスに及ぼす影響を定量的に経済価値評価する(図2).すなわち,生態学だけでなく,農学,経済学,統計学など多様な分野の専門家の衆知を集結し,これら異分野で構築して来た知見・技術を融合させ,次世代に向けた新領域での研究を遂行する.


図2:提案するシステム

 本研究において構築するシステムは,1)政策が経済活動へ及ぼす影響,および社会経済活動を表現する経済モジュール(広域・地域経済モジュール,図3),2)経済および環境変化に応じて変化する管理・土地利用を表現する土地利用モジュール( 図3),3)それらが生態系へ及ぼす影響を予測するための生態系モジュール( 図3),から構成され,これらを統合することで,適応策と社会・経済・生態系の相互作用をシミュレーションすることが可能となる.さらに,生態系モデルにより定量的に予測された影響を経済評価できるシステムを構築することにより,様々な政策オプションの生態系へ及ぼす影響について定量的に評価し,政策オプションの選択を行う際に有効な情報提供が可能となる.ここではそのプロトタイプとして,仙台市を事例に研究を展開する.


図3: 各モジュール

■ 目的

  • 空間情報を用いた生態系サービスの定量化
  • GIS を用いた生態系サービス動態の可視化
  • 資源の時空間配置最適化
  • 生態系サービスの経済価値評価
  • 政策シミュレーション分析

■ 全体計画

  • 仙台市において様々な生態系サービス評価を可能にするためのGIS データをシステムの基盤として整備する.
  • 生態系サービスを特定し,その供給メカニズムを資源管理モデルの枠組みで評価・分析可能なモデルとして構築する.
  • 土地利用モジュール・経済モジュールと上記の生態系モジュールを結合する.
  • 結合モデルによる政策シミュレーションを行い,経済分析を行うとともに,生態系サービスの定量的な経済価値評価を行う.

■ 現在までの成果・結果

これまでの経過は下記の通りである.

  • 宮城県農林水産部林業振興課の協力を得て,森林計画図および森林簿のデジタルデータ化
  • 仙台市環境局の協力を得て,植生図や動植物の分布図などの各種GIS データを取得・整備
  • 生態系サービスの1つであるポリネーションについて文献の調査とモデリング
  • 土地利用モジュールとして,空間配置に対する集約分布最適化プロトタイプモデルの構築
  • 経済モジュールについて,基礎データベースの構築及びプロトタイプモデル設計

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3.農林畜産生態系における生物多様性が生態系機能の発揮に及ぼす影響

■ 研究の目的

 将来予測されている地球環境激変下において、頑健で持続的な農林畜産業を実現していくためには、生物多様性を利用して生態系機能を発揮させる新たな生産システムの構築が有効な方策の一つと考えられる。本研究では、1)草地生態系(放牧地)、2)畜産環境系(汚水処理)、3)耕地生態系(水田)、4)森林生態系(苗畑)、5)流域系(流域全体)の5つの系を対象とした大規模な野外操作実験を行ない、各系における生物多様性の違いが生態系機能の発揮に及ぼす影響を調べることを第一の目的としている。また、より応用的(産業的)な成果として、個々の系において生物多様性を利用した具体的な生産システムを開発することを目的としている。さらに、本研究において大規模野外操作実験地を整備することにより、1)広く融合研究のために利用できる野外研究拠点として機能させること、2)様々な系における生物多様性と生態系機能の関係を理解できる実習教育拠点として機能させることを実用的な目的としている。

■ どのように融合研究を実施しているか

 従来の農林畜産業に関わる研究は、いわゆる農学分野内の研究として行われて来たが、本研究では他分野の研究者と融合した研究として実施している。例えば畜産環境系では、農学のほか、生物系の微生物学および汚水処理システムに関して工学分野との共同研究を実施している。また流域系では、農学のほか、リモートセンシングおよび経済系との融合研究を実施している。

■ 全体計画および主な成果と研究実施状況

以下の5 つの系に関してそれぞれの研究目的が基礎と応用という形で研究を実施している。

1)草地生態系(放牧地)

・放牧地における草種の多様性が草地生産性・家畜生産性に及ぼす影響
・野草を利用した持続的放牧畜産システムの開発
→生物多様性の異なる3つの草原を造成。「撹乱からの回復ポテンシャルの評価」等の研究を実施。

2)畜産環境系(汚水処理)

・微生物群集の多様性がコンポスト化・汚水浄化機能に及ぼす影響
・畜産廃棄物処理システムの開発
→コンポストプラントを利用して「コンポスト化過程における微生物群集の動態」等の研究実施。

3)耕地生態系(水田)

・水田における生物多様性と水稲生産性の関係(有機と慣行栽培の比較)
・生物多様性に配慮したイネの有機栽培技術の開発
→慣行・有機栽培の比較用水田を整備。「慣行・有機栽培水田の環境負荷比較」等の研究実施。

4)森林生態系(苗畑)

・種苗群の遺伝的多様性が病害防除・苗木生産性に及ぼす影響
・遺伝的多様性機能を生かしたシイタケ原木林施業
→実験用種苗育成用の種子を採取。苗木育成を開始。

5)流域系(流域全体)

・景観レベルでの生物多様性が流域内の環境インパクトに及ぼす影響
・農林畜産業生態系を移動する水質と栄養塩類バランスを最適化する流域モデルの構築
→「川渡フィールド」のレーザー測量・ハイパースペクトル観測等を実施。(右図:航空機ハイパースペクトル観測による「川渡フィールド」における土地利用図)

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4.高CO2環境での植物の適応

■ 研究の目的

 植物は、大気中のCO2 の吸収をはじめ、蒸散、土壌形成など様々かつ大きな環境形成作用をもつ。生態系適応策を考えるにあたり、植物の機能を利用することは必要不可欠であり、そのメカニズムを明らかにすることは重要である。分子生物学的手法は生物の機能解明を爆発的に推進してきたが、これまで地球環境変化を意識した研究や、生態学や生態工学の面からの研究は少ない。本GCOE では分子生物学的手法に長じた分野とその手法を植物の地球環境応答解明に直接フィードバックできる位置にいる植物生理生態学の分野が参画していることを利用し、高CO2 環境で優れたパフォーマンス(CO2 吸収や種子生産)を示す遺伝子型の作出を目指し、実験的研究を行うこととした。

■ 全体計画

1)モデル植物シロイヌナズナを用い、化学薬品によって突然変異誘発を行う。クロロフィル蛍光を用いて光合成や熱放散のCO2 濃度依存性に異常がある個体を選抜し、遺伝学的解析によって異常を受けた遺伝子を特定する。その遺伝子の過剰発現株や欠損変異株を作出し、表現型を調べる。高CO2 環境でCO2 吸収速度や種子生産が高い組換え体を作製する。

2)(1)で得られた知見をもとに、イネなど主要作物の多数の品種についてQTL 解析を行い、高CO2 環境でのCO2 吸収速度や種子生産に関連した遺伝子を探索し、交配育種により高CO2 環境で高いパフォーマンスをもつ株を作出する。

■ 現在までの成果

 まず、二次元クロロフィル蛍光測定装置を利用したスクリーニングシステムを構築した(図1)。このシステムにより、異なる二酸化炭素濃度環境で多数の個体のクロロフィル蛍光の測定が可能となった。これまでに、約4000 個体のシロイヌナズナ突然変異誘発株について一次スクリーニングを行い、約80 個体の候補株を得た(図2)。引き続き一次スクリーニングを行うとともに、候補株の詳細な表現型解析と遺伝子解析を行う予定である。


図1(左)二次元クロロフィル蛍光測定装置と異なるCO2 濃度で測定を行うためのチャンバー。
図2(右)4000 個体のスクリーニング結果。高CO2 環境に適応的と考えられる変異 体(○)や低CO2 環境に適応的と考えられる変異体(□)が得られた。

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5.自然免疫抑制作用を用いた疾病制御・生息地が自然免疫の空間構造におよぼす影響

 生物が本来備えもつ病気に対する抵抗性(自然免疫)に着目し,生息地環境など生息地空間構造が疾病の制御という生態系サービスに与える影響を定量化し、疾病の拡大による生態系サービスの低下を防ぐ土地管理を提唱する。また、害虫特異的に働く免疫阻害剤によるペストコントールの可能性を探る。本研究は、免疫学、薬学などの分野と生態学進化学の分野の融合研究と同時に、土地管理による疾病制御・ペストコントロールによる生態系サービスの評価を行うことで、融合研究2における生態系サービス評価の研究と連携し、経済学や社会学などの分野との融合を計る。

(1)ショウジョウバエの自然免疫関連遺伝子の変異と生息環境の関係

 自然免疫の応答には、Toll pathway とimdpathway が知られており、これまでに21 遺伝子の127 のサイトに自然集団で変異があることが報告されている(Lazzaro et al. 2004,2006). 本研究では、複数の環境の異なる自然集団に生息するショウジョウバエを用いて、これらの変異が自然集団中でどのように維持されているのかを調べ、空間構造および生息環境と遺伝的変異の関係を検出する。また、変異と病原菌に対する抵抗の関係を調べ、疾病制御に有効な集団構造を特定することを目的とする。現在、病原菌認識部位であり、数種の菌の抵抗性に違いのみられるSR-CII のSNP サイトで集団内多型および集団間の変異が見られた. 特に一部の都市部で多型変異が維持されていること、また、環境の違いで異なる遺伝子が増大している可能性が示唆された。今後、生息環境の違いが遺伝的変異に与える影響について特定していく予定である。

(2)ヤマアカガエルの抗菌ペプチドの多様性と抵抗性

 現在、両生類は世界的に多くの種が絶滅しており、種多様性が急激に減少している生物である。その一つの要因として、病原体の感染が大きな問題となっている。カエル類は、皮膚に多様な抗菌物質である抗菌ペプチドを生成することがしられており、抗菌物質の多様性と病原体との抵抗性との関係が予測される。そこで、ヤマアカガエルを用いて、抗菌ペプチドの遺伝的多様性を特定し、野外での集団構造と遺伝的多様性を明らかにすることを目的とする。これまで、temporinと呼ばれる抗菌ペプチドに少なくとも4-6 座位の遺伝子座が存在し、その内のいくつかには、遺伝子座数多型の存在が示唆された。現在、これらの遺伝子座位を特定し、遺伝的多様性の維持機構について研究を進めている。

(3)ナラガレをモデルケースとした侵入病原体の制御

 現在、ナラガレは東北地方へと拡大し、被害を及ぼしている。このナラガレの防御をモデルケースとして、立ち枯れ病の感染拡大と防除効果をモデルで予測すると同時に、マツやナラ林の生態系サービスの経済評価を行い、防除すべき分布と量を決定することによって、防除対策の実現性を推定し、複数の対策から、より実現性の高い具体的な防除対策を提案することができる。現在、感染分布予測のために、ナラ枯れの媒介生物であるカシノナガキクイムシの予の産卵行動のモデル化を進めている。また、ナラガレに感染した樹の空間分布、周囲の植生データなどをすでに得ており、現在解析中である。

(4)自然免疫抑制作用を用いた疾病制御

 本拠点メンバーの倉田らは、自然免疫に特異的に作用する免疫抑制剤を開発している。この薬剤を使用することで、たとえば感染病原体のベクターとなる生物に応用し、病原体に感染した個体のみの死亡率が増加するとことで、ベクターを全滅させることなく、感染病原体の密度を他の生態系に影響を与えずに減少させることができると予測できる。そこで、自然免疫抑制による疾病拡大制御が可能な条件を数理モデルによって解析した。免疫抑制剤を約集団の5%が摂取した場合、感染した個体は絶滅し、非感染個体のみが集団中に維持されることが明らかになった( 図1)。今後、実験的に予測が正しいかを検証する予定である。


図1.免疫抑制剤による感染個体の制御のシミュレーション結果

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6.流動制御による湖の水質改善と生態系管理

■ 研究の目的

富栄養化は世界に共通する環境問題であり、地球温暖化は富栄養化を加速度的に進行させる。このため、効果的な富栄養化対策技術が求められているが、中でも持続性ある底質改善技術は重要である。本研究では、浅い閉鎖性水域の底質形成において重要なメカニズムである流動(波・流れ)と底質の沈降・堆積、巻き上げの関係を詳細に検討し、流動の制御による底質改善技術を開発する。導水などの流動の強化が底質の有機物濃度を低下させ、底質を生息場とする底生生物の種類や個体数に影響を及ぼすことを実験的に検証する。本技術によって閉鎖性水域の水質改善、水圏生態系の生物多様性の健全化など水環境保全上重要な課題の解決に貢献する。

■ 融合研究のポイント

 本研究は生態系の現象把握、機構解明という理学的部分、技術開発という工学的部分、技術の評価という社会科学的部分から構成される。また物理(波・流れ)・化学(底質)・生物(底生生物)という要素から成り立っている。また、基礎研究(各種手法の開発)は日本において進め、その検証に関してはカウンターパートの中国東南大学と協力して中国太湖等での調査研究を行う。

■ 全体計画

 下図のとおり3つのサブテーマを設定して研究をすすめる。

■ これまでの研究成果

 流動パラメータF を定義し、底質環境との関係について定量化を行った。その成果は Marine andFreshwater Research, 土木学会論文集などに掲載した。

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7.沿岸環境における地球環境変動指標生物の査定と分布変動機構の解明

【目的】

 女川湾を中心とした北日本沿岸域における海洋環境の長期変動と海産生物の現存量や分布の変動を比較することで、地球環境変動を指標する生物を査定する。また、査定された指標生物の地域集団形成の歴史的過程や現在の集団構造を明らかにして、その将来を予想する。

■ 全体計画

 本学大学院農学研究科附属複合生態フィールド教育研究センターが位置する女川湾では過去20数年間にわたって海洋環境観測データ、プランクトンデータ、沿岸岩礁域潮間帯生物分布調査のデータが蓄積されている。この女川湾を研究拠点として過去のデータを整理・解析するとともに、海洋観測、生物調査を継続して行い環境変動を明らかにするとともに指標生物の査定を確かなものにする。

■ 現在までの成果

1) 女川湾での珪藻プランクトンの種遷移は1994年以降に行われた4つの研究によると次のようにまとめられる。春季ブルームはChaetoceros debilis とThalassiosira nordenskioeldii が主体、夏の表層の増殖はシアノバクテリアが主体であるが、珪藻種は年によって出現種が異なる。秋季ブルームの主体はSkeletonema costatum である。以上の種遷移は1975 年の調査でもほとんど変わらなかった。ヒドロクラゲに関しては過去4年間の調査で季節消長があきらかになった。全26種のうち毎年同じ季節に出現している7種は女川湾で生活史を全うしていると考えられる。黒潮系暖水が入り込んで暖水性種が大増殖することもある。温暖化が進むと低水温期に優占するObelialongissima 個体群が衰退する可能性がある。枝角類については2001 年から4回調査が行われており、日本近海に出現することが知られている7 種全部の出現が認められ季節消長が明らかにされた。各種の出現水温帯が明らかになったので温暖化に伴う種組成の変化がある程度予想できる。

2) 近年松島湾の海藻相は暖流系化していることが報告されている。マコンブの分布の南限にあたる松島湾でその生活年周期を3年間調査したところ、生育期間や成熟期は北方域よりも短く、生育が認められない年もあったこと、発芽時期が極めて遅いことから、近年は再生産に成功していないと考えられる。松島湾ではマコンブの生育に不適な高水温・貧栄養の海況条件が長期に持続していることが原因と考えられる。地球温暖化が進行すると、マコンブ群落の南限はさらに北退していくと考えられる。3) アゴハゼは北海道南部から種子島まで広く分布する魚類である。分子集団遺伝学的解析によって太平洋グループと日本海グループに分かれ、その分化は、170 万年前におけるアゴハゼの日本海への進出と、その後の氷期における日本海の隔離によって引き起こされたと考えられた。太平洋クレード内には、5 つのサブクレードが形成されたが日本海クレード内には明確なサブクレードは形成されないことから、太平洋グループは隔離と分散を繰り返しながら分布域を形成してきたが、日本海グループは比較的速やかに分布域を形成してきたことが示唆された。今後、これらの知見を元に、2 グループの交雑の有無、2 グループ間の生活史形質の差異と適応形質の査定、日本海側における環境適応の痕跡について検討を進めていく予定である。