第15回生態適応セミナー

 

 

佐々木雄大 博士

東北大学・生態適応GCOEフェロー

 
     
 
モンゴルの放牧地生態系における持続的土地管理への生態学的基準
 
     
 

日時 5月7日 18:15-

 
  場所 理学部・生物地学共通講義室  

放牧地生態学研究の最終目標は、放牧地管理および生物多様性保全の観点から家 畜放牧が自然環境とその変容に与える影響を予測することにある。しかし、放牧 地生態系を捉える概念は二極化しており、理論に基づく概念に厳密にとらわれ過 ぎることで、現実の系に即した管理への応用が十分に達成されていないのが現状 である。また放牧などの撹乱による種の共存に支えられる、種多様性の高い群集 は土地管理の上でも重要とは限らないため、放牧地の持続的利用と生物多様性保 全の両立は困難となる場合が考えられる。現在の放牧地生態学は、これらの問題 に包括的に対応した管理論を提供できていない。 研究の対象としたモンゴルの放牧地生態系では、社会主義体制の崩壊により、放 牧圧を適切に分散させていたと考えられる土地利用コントロールシステムが消失 した。それに伴って、放牧圧の局所集中が顕在化するようになり、実際に土地荒 廃が引き起こされているという報告例がある。放牧地生態系においては、放牧は 主要な撹乱要因であるため、このような土地利用の変化は系全体における撹乱体 制の変化につながると考えられる。 以上のような撹乱体制の変化に伴う土地荒廃を予防する手段として、適切な管理 基準の確立が求められている。さらに、生態系の頑健性を維持しつつ持続的な利 用を行っていくためには、導かれる管理基準は生物多様性の保全を包含した基準 である必要がある。 そこで、放牧地生態系における種多様性および機能的多様性の維持かつ持続的土 地利用を可能にする頑健な生態学的基準を提供するため、生態学の理論体系を放 牧地管理に結び付け、その上で予測的価値を持った生態学的管理基準を抽出する こと、を大きな目的として研究を行ってきた。 本講演では、放牧地生態系を捉えるための重要な概念の強みと弱みを整理しなが ら、種々の群集生態学理論(生態学的閾値、中規模撹乱仮説、機能的冗長性)を 研究の枠組みに据えることにより、いかにしてこれらの概念を柔軟に取り入れた 持続的土地管理のための生態学的基準が抽出できるのかということを簡潔に報告 したい。