第38回生態適応セミナー  
野原克仁博士(生態適応GCOE助教)
     
 

環境改善によるレクリエーション便益評価
— 家計生産関数アプローチ —

 
     
 

日時 4月20日(火)15:30-17:30

 
  場所 青葉山キャンパス 生物地学共通講義室   
     
  1960年代における先進国の経済発展と,近年における,世界人口の80%以上の人口を有する開発途上国の工業化に伴い,地球環境問題の深刻化が進み,現在はまさに危急の状況にあると言える.世界経済が窮迫しないためにも,持続可能な開発の早期実現が必要であり,今後は環境教育(Environmental Education)の重要性がより一層増すであろう.この点に関しては,1972年に開催された「国連人間環境会議(ストックホルム会議)」において早くも指摘されており,さらに1977年の「環境教育政府間会議(トビリシ会議)」で採択された「トビリシ宣言」では,14項目にわたり環境教育を定義している.その中には,「全ての人々に,環境の保護と改善に必要な知識,価値観,態度,実行力,技能を獲得する機会を与えること」とある.さらに,1987年の「環境と開発に関する世界委員会」における報告書(ブルントラント報告書)では,持続可能な開発に向けた環境保全戦略の中において,環境教育の重要性を指摘している.  トビリシ宣言にある,環境の保護と改善に必要な知識等を獲得する機会を,全ての人々に与えるにはどのような施策が必要だろうか.それは,身近で自然環境を体験できる機会を増やすことであり,観光施策の推進が益するところは大きいと思われる.そこで,昨今のわが国の動向を窺うと,平成18年12月に「観光立国推進基本法」が成立し,平成19年6月には「観光立国推進基本計画」が閣議決定され,さらに平成20年10月1日には,国土交通省の外局として「観光庁」が発足している.また,観光庁アクションプラン(平成21年4月改定)では,観光立国実現のために,「国内観光旅行による一人当たり宿泊日数の増加」を掲げており,その施策として観光圏の整備などといった観光地づくり,ニューツーリズムの創出などといった観光産業の促進,雇用創出に繋がる人材の育成・活用等を挙げ,その実現を図っている.このように,わが国においては,法制度の整備や観光庁の発足等,観光施策を重点的に行うための礎が築かれ,今後は観光立国に向けた取り組みがますます盛んになると言えるだろう.  観光は,旅行業をはじめ宿泊業や飲食業など,広範な産業にわたっており,その経済波及効果は極めて大きいと言え,さらに持続可能な開発に向けて不可欠である環境教育としての側面を持つことから,それには一定の効験が期待される.しかし,これまでの日本の旅行形態は多人数参加型のマス・ツーリズム(Mass Tourism)であり,自然環境に配慮せず様々な問題を引き起こしてきた.従って,今後観光の促進を図る上において,その骨子は自然環境に配慮した持続可能な観光として推し進めることが肝要となるだろう.以上のような社会情勢を勘案し,本研究は,環境改善がもたらすレクリエーション便益を市場で観察可能なデータから計測するため,家計生産関数アプローチを導入した理論モデルの構築,および弱補完性定理に依拠しない便益推定式の導出を行う.さらに,構築した理論モデルを用い,アンケート調査から得られたデータをもとに実証分析によるレクリエーション便益の計測を目的とする.特に,本研究は環境改善によるレクリエーション便益計測を理論研究・実証分析双方で行っているため,自然環境の保護・管理・維持を重視した観光施策の提言に寄与すると考えられる