第41回生態適応セミナー (Aセミナー/企画セミナー)

伊藤進一(水産総合研究センター 東北区水産研究所)、渡邊良朗(東京大学 大気海洋研究所)、谷津明彦(水産総合研究センター中央水産研究所)
 
  変動する環境の中で水産資源を管理する  
     
  日時 6月18日(金曜日)14:00‐17:00  
  場所 東北大学片平キャンパス プロジェクト総合研究棟講義室  
   
 

1. 海洋生態系モデルを用いたレジームシフトへのアプローチ:その現状と今後
伊藤進一(水産総合研究センター 東北区水産研究所)

気候変動は海洋生態系に様々な時空間スケールで影響を及ぼしているが、数十 年スケールで、大気‐海洋‐海洋生態系の基本構 造が転換する現象をレジームシフトと呼ぶ。レジームシフトは大洋規模の空間ス ケールを持つが、それぞれの海域に生息している海洋 生物は特有の群集構造や生物特性を持つため、海洋生態系の応答は複雑である。 海洋生態系の応答メカニズムを調べる方法として、 海洋生態系モデルを用いた研究が多くなされてきた。本講演では、北太平洋を例 に、レジームシフトのメカニズム解明に用いられたモ デル研究を紹介し、海洋生態系モデルの限界と将来への展望を示す。北太平洋規 模では、植物プランクトンの変動は比較的再現性が 良く、また、ニシンやサンマの成長変化もモデルで調べられている。しかし、動 物プランクトンの再現性、種間競合の表現には問題が多 く残されている。種間競合が重要な例として、サンマ、マイワシの変動について 話題提供する。

2. 魚類新規加入量変動様式の南北差
渡邊良朗(東京大学 大気海洋研究所)

海洋生態系のレジームシフトに伴って、魚類の資源量は大きく変動する。1980 年代から20年間の研究によって、魚類の資源量が地 球の一部として自然変動するという新しい認識が得られた。しかし、すべての魚 類資源がレジームシフトに伴って資源量を大きく変動さ せるわけではない。1960年代の漁獲量1万トンから1980年代に450万トンに増加し た後、2000年代には5万トンへと激減したマイワシ資 源とは対照的に、ウルメイワシはこの期間の漁獲量2.5~6.5万トンで安定してお り、レジームシフトに免疫を持つかのごとくである。同じ ニシン科魚類でありながら、このように変動様式が異なるのはなぜか。資源量変 動様式の南北差をいくつかの事例を紹介し、魚類の 繁殖生態と環境変動との関連を考察する。その上で、自然変動する資源の合理的 利用を考える。

参考文献
Watanabe Y (2009). Journal of Northwest AtlanBc Fisheries Science 41, 197‐204
塚本勝巳(編) (2009). 海と生命「海の生命観を求めて」. 東海大学出版会. 東京.508pp.
Watanabe Y (2007). Journal of Sea Research 58, 46‐58. 渡邊良朗(編)(2005). 海の生物資源. 東海大学出版会. 東京. 436pp.

3. 浮魚類資源とレジームシフト ~資源変動の仕組みと管理の考え方~
谷津明彦(水産総合研究センター中央水産研究所)

十年規模での海洋生態系と地球規模での気候変動の研究が結合して、レジーム・ シフトの概念が誕生した。ここでは、黒潮~親潮に 分布するマイワシとマサバを中心に,次の4つの話題について紹介する。 ・水産資源の評価:漁獲統計や調査船調査などに基づき、資源量、漁獲の強さ、 再生産成功率(RPS,加入尾数÷親魚量)などを推定し、 資源状態と利用の適切性を評価する。 ・世界の水産資源の利用状態:ほぼ頭打ち、大幅な漁獲量増加は望めない。 ・水産資源変動のしくみ:地球規模での気候変動が各海域の物理変動を介して海 洋生態系の構造と生産性を変化させる。 ・変動を踏まえた水産資源管理:RPSの変動に合わせた漁獲、小型魚の保護、適 量で多様な親魚の確保、不確実性の考慮、漁獲から 消費まで社会経済要素も加味する。