第53回生態適応セミナー (Bセミナー)

     
  日時:5月11日(水曜日)15:00–16:30  
  場所:東北大学青葉山キャンパス 生物地学共通講義室
 
     

講師:石川由希博士(東北大学生命科学研究科)

     
  社会性昆虫の分業を支える神経分子基盤
-兵隊シロアリの防衛行動を題材に-
 
     
 

 『社会性 Sociality』とは、同種個体が協調的なコミュニケーションをおこなうような性質を指し、古くから多くの動物に見いだされてきたものである。社会性昆虫は、特に高度に発達した社会性を獲得し、生態系において大きな成功を収めている。社会性昆虫の最大の特徴は『分業』であり、コロニーメンバーがカーストごとに異なった行動や形態を示すことでコロニー全体の生産性を高めている。社会性昆虫のコロニーメンバーはほぼ同一のゲノム情報を共有していることから、このようなカースト多型は表現型多型polyphenism(※)の代表例としても注目されている。
 今回のセミナーで取り上げるシロアリもまた、社会性昆虫の1グループである。シロアリはゴキブリと非常に近縁であり、アリやハチなどの膜翅目昆虫とは全く独立に、高度な社会性を獲得した不完全変態昆虫である。シロアリのコロニーに存在するカーストは、生殖虫、ワーカー、兵隊に大別される。なかでも兵隊は、コロニー防衛に特化したカーストで、発達した武器(大顎や防衛物質の分泌腺など)をもち、高い攻撃性を示す。本研究では、この兵隊シロアリの示す高い攻撃性と防衛行動に着目し、これらの行動形質をもたらすメカニズムを解明することで、社会性昆虫の分業を実現させる神経分子基盤を理解しようと試みた。
 セミナーでは、(1)攻撃性の定量から見えたシロアリのコロニー防衛戦略(2)兵隊の攻撃性に関与する生体アミンシステム(3)スプレー型兵隊における「新しい」防衛行動の基板となる運動機構(4)行動の分化に関与する遺伝子の網羅的スクリーニング、という4つのトピックを解説し、そこから予想されるシロアリの防衛行動を司るメカニズムと、その進化に関して考察したい。

※同一のゲノム情報から不連続に異なる表現型が生じる現象。バッタ類の相変異、チョウなどの季節多型、社会性昆虫のカースト多型など。