「生態環境人材育成プログラム」説明会

現役学生の声
(農学研究科・富田基史)

悩みの中で転機となった生態適応GCOE

 私はプロの研究者を志し、2006年に北海道大学農学部を卒業後、東北大学大学院に入学しました。2006年10月に国際学会デビュー、2007年11月に学振特別研究員の内定を取り、あまり疑問に思わずそのまま博士課程へ進学しました。しかしながら2008年5月、初めてアクセプトされた英語の査読論文で、自分の研究のインパクトについて説明することに大変な苦労をしました。そこで初めて、自分の研究が何になるのかを自分自身があまり深く考えていなかったことに気づいたのです。そして、このまま自分が研究を続けて何になるのだろうと非常に悩むようになりました。

 悩みの中で大きな転機となったのが、2008年6月、生態適応GCOEの採択でした。拠点リーダー中静教授の「これからの時代は研究のアウトプットを意識しなければいけない。PEMは社会で使えるドクターを目指す。自分の進路は自分で切り開いてくれ」という話に、私は大きな刺激を受けました。そして社会により還元できるような研究者になりたいと思うようになり、少し気持ちを切り替えてやることにしました。

 早速GCOEからのサポートを取り付け、2008年8月、カナダで開かれた樹木の遺伝子に関する国際学会に参加しました。そこではまさに中静教授の仰る通り、基礎研究から研究成果のアウトプットまで、様々分野の専門家が集まり議論している様子を目の当たりにしました。また2008年12月、国際生物学賞受賞記念シンポジウムのホスト役を生態適応GCOEが務めた際、来日した20数名の著名な生態学者たちと話す機会を得て、非常に大きな刺激を受けました。

自ら行動を起こすきかっけとなったPEM

 ここまでは単に受身で聞いているだけでしたが、自ら動き出すきっかけとなったのは、PEMが始まった2009年4月からです。一番最初のきっかけは、「ソーシャル・レスポンシビリティ学」という、企業・官庁・NGO・大学など各団体が果たすべき社会的責任について学ぶPEMの講義でした。ここで初めてビジネスセクターの人たちと出会い、環境問題の専門家に対する需要の高さを感じました。

 それが現実味を帯びたのが、2009年9月に「国際フィールド実習」でマレーシアのボルネオ島を訪れた時のことです。実習の目的は、熱帯雨林の現状を認識し、どのように保全して持続的に利用していけば良いかを考えることでした。これまで知識として知っていたことが、現実味を帯びて感じられた、非常に大きな実体験でした。

 そして2009年11月、「ソーシャル・レスポンシビリティ学Ⅱ」の講義をきっかけに、国際NGOナチュラル・ステップとの交流も始まりました。持続可能な社会の構築に向けて自分たちは何をすべきか勉強して議論を重ね、さらに「The Natural Step」のテキスト日本語化に携わったことは、自ら行動を起こすことのきっかけとなりました。

国際インターンシップでローマの国際NGOへ

 それから私は色々なことにチャレンジしてみようと、生態適応GCOEに関する色々な企画に携わりました。そして、2010年3月にマレーシアで行われた樹木の遺伝子に関する国際学会で国際NGOの方と出会い、その場でインターンシップを申し入れたところ、快諾いただいたのです。そのようにして、2010年9〜11月の2ヶ月間、「国際インターンシップ」でローマにある国際NGO「Bioversity International」に滞在することになりました。

 このNGOは、生物多様性の持続的な利用を通じて、世界中で生活の向上を図っていくことを目的とした団体です。政府や国連が多く出資している団体で、FAO(国際連合食糧農業機関)との大きなつながりがあります。具体的な業務は,FAOが発行するレポート「State of the World's Forest Genetic Resources」の準備のためのレビュー論文を執筆するための文献調査・プロポーザル書きなどです。このプロジェクトには現在も関わっています。

 このNGOでコーディネーターとして活躍していた二人は、博士号を持ち、世界規模でマネジメントをしていました。国際組織では、コーディネーターが博士号の取得者であることは当たり前のようです。もう一つ興味深かったのが、インターンシップに参加している学生や若手職員のキャリアパスです。特にヨーロッパの学生は、在学中や修士取得後に一度、インターンシップで社会に出て経験を積むようです。博士取得後からキャリアを重ねていく日本とは大きく異なりますが、ヨーロッパの学生は修士の頃から仕事への意識が高く、次の自分の仕事につなげるためには今何をすべきか常に考えているなと非常に考えさせられました。

PEMで幅広い価値観と様々なスキルが身についた

 私がPEMを受講して良かったことは、まず幅広い価値観と色々なスキルが身についたことです。研究者として専門分野を探究していると、どうしても視野が狭くなりがちですが、自分の研究が社会にどのようなインパクトをもたらすのか、あるいは社会から求められていることに対して、自分は何ができるのかを非常に意識するようになりました。スキルも単なる英語力だけではなく、社会性、つまり様々な立場の人とコミュニケーションするスキルがついたと思います。

 自然科学だけでなく経済学や国連関係、企業など、多様な立場の人々との交流も、非常に大きな財産となりました。それから幸運なことに、新しい進路も見つかりました。面接では当然ながらPEMをアピールポイントとしました。来年からは少し専門を変えて、生物多様性アセスメントの研究者として働くチャンスを得ました。これもPEMが評価された結果だと思っています。

 ただ時間が足りませんでした。PEMでもっとやりたいことがありましたし、研究者として博士課程でもっとやりたいことがありました。この説明会には修士学生の方も参加されているとのことですが、時間に余裕がある今のうちに、自分が将来何をやりたいのか、何をできるのかを考えていただければと思います。

PEMで得た知識・人脈を手に可能性を広げて

 最後に、PEM受講者へ私がメッセージとして伝えたいことがあります。PEMのコースは非常に大変です。けれどもPEMはほんの一部のきっかけに過ぎません。そこから自分が何をできるのか考えることで、初めてPEMの可能性が広がると考えています。もちろん知識を得るだけでも十分なのですが、より現場に出たい、あるいは幅広い分野で活躍したい人は、PEMをきっかけにして得た知識や人脈を手に、可能性を広げていただければと思います。

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