ロシア極東ビキン川流域の持続可能性をデザインする

 東北大学生態適応GCOEは「生態適応人材(Professional Ecosystem Manager:PEM)」の実践科目として、9月21日から10月2日までの12日間、ロシア極東にて「サステナブルデザイン」をテーマに国際フィールド実習を実施し、博士課程の学生ら15人が参加しました。
 本実習は、学生自身が環境問題を抱える海外の現場を視察し、集中講義を受け、その実態を体験した上で、現地の学生とのディスカッションを通じて、問題点の理解と解決策をともに探ることをねらいとしています。

■ロシア極東ビキン川流域とは?

 日本海を挟んで日本列島の対岸に位置するロシア極東。そこを流れるアムール川の支流・ビキン川(全長580km)流域には、「ウスリータイガ」と呼ばれる針葉樹と広葉樹が混交する原生の森が広がります。そこは、絶滅危惧種アムールトラを頂点とした類稀な生物多様性の宝庫であると同時に、自然の恵みを巧みに利用してきた「ウデへ」ら先住民族たちの生活の場でもあります。しかしながらビキン川流域のタイガを巡る状況は今、開発と保全の間で揺れ、その持続可能性が危ぶまれています。

■現地の抱える課題とは?(6月27日 事前研修会)

 実習に先立ち6月27日に仙台メディアテークにて行われた事前研修会では、本実習コーディネートを務める環境団体「タイガの森フォーラム」から、ビキン川流域タイガに生きるウデへら先住民族の現状が映画「タイガからのメッセージ」を交えて紹介され、現地の抱える課題が以下のように掲示されました。

①天然資源管理の権限が村にない(常に外部から森林伐採が行われる可能性)
②電気や道路などインフラ不備(都市へのアクセス不良、不安定な電力供給)
③雇用の場や機会が少ない(社会主義から資本主義の移行で問題が増加)
④ゴミや排泄物の処理システムがない(プラスチックゴミの増加、ゴミの山)

 また、白岩孝行准教授(北海道大学)は、アムール川によって輸送される溶存鉄が(1)オホーツク海と親潮の海洋一次生産に大きく貢献していること(2)地球温暖化やアムール流域開発の影響を受けることを講演し、その問題解決には「日露中の協力が不可欠だ」と語りました。

■「ビキン川流域のサステナブルデザイン」課題別WGテーマ

 では先住民族たちの伝統文化を守りながら、如何にして持続可能な社会を築くか。課題解決のためのプロジェクトを提案する体験として、学生らは、現地の抱える課題別に以下4つのワーキンググループ(WG)に分かれ、実行可能な企画書をつくることに取組みました。

WG1.天然資源管理に関する権利問題
WG2.クラスニヤール村における電力事情とマイクロ水力発電の導入可能性
WG3.タイガの森林保全を絡めたエコツアー企画
WG4.ゴミ処理もしくは排泄物処理の解決-気候風土に適した処理方法について


ハバロフスク実習(郷土史博物館、ロシア科学アカデミー)

 課題別WGごとに国内で事前調査を進めた学生たちは、9月21日、ハバロフスク経由でビキン川流域へむかいました。まずは、ロシア極東の自然や先住民族などについて理解を深めようと、22日はハバロフスク市内で実習が行われました。

■郷土史博物館を見学

 まず一行は、ハバロフスク州立郷土史博物館を訪問。ロシア極東に住む生物のはく製や、先住民族の生活・宗教上の用品などを、学芸員の説明を受けながら見学しました。
 中緯度混交林と高緯度針葉樹林の境目に位置し、「極東のアマゾン」と呼ばれるほど、類稀な生物多様性を誇るロシア極東の自然。しかし近年、森林伐採・森林火災など人為的な要因で森林面積が減少し、絶滅危惧種(レッドデータ)に登録される生物が年々増えているそうです。この問題に対してロシア政府は、先住民族の伝統文化に学ぶことを重視しながら対策を進めていることなどが説明されました。

■ロシア科学アカデミーを訪問

 続いて、「アムール・オホーツクプロジェクト」(プロジェクトリーダー:白岩准教授)にも参加したロシア科学アカデミー極東支部の「水・生態学研究所」を訪問し、4名の同研究所員から集中講義を受けました。
 講義では、アムール川流域の環境問題やツーリズムなどについて解説されたほか、ハバロフスク地方が直面する環境問題に対して、純粋科学的な研究だけでなく、地方政府や隣国の研究者らとも連携しながら取組んでいることなどが紹介されました。

Mr.Makhinov Alexey Nikolaevich
(学術担当副所長、地理学博士)

「アムール川流域の自然の特質、環境問題、アムール川研究における同研究所の活動」

Ms.Mirzekhanova Zoya Gavrilovna
(地理学博士)

「ツーリズム発展の展望とアムール川流域の国境地帯」

Mr.Novorotskiy Petr Vasilyevich
(地理学準博士)

「アムール川流域の気候変動」

Ms.Sokolova Galina Vadimovna
(地理学準博士)

「火災からの森林保全、および日本の研究者との協力について」


■アムール川を展望

【写真】「極東のシンボル」と市民に愛されるアムール川を展望。アムール川の全長は、支流を含めて、約4,440km(世界第8位)。ロシア・中国・モンゴル・北朝鮮の4ヶ国に渡り流域が広がる。その大部分は、面積で見ればロシアだが、人口で見ると中国。下流に位置するロシアには、アムール川を通じて色々な国からの水が流れ込み、その水はオホーツク海、一部は日本海に注ぐ。アムール川に水道水を依存するハバロフスク市にとって、中国から流れてくる有害物質は深刻な環境問題だと言う。



クラスニヤール村実習①(ビキン川流域タイガ現地調査)

 では、現地では一体どのようなことが起きているのでしょうか。ビキン川流域のタイガに生きる先住民族たちの伝統文化や環境問題の実態を学ぼうと、一行は23日、ビキン川流域タイガの入口にあるクラスニヤール村へ出発しました。

■クラスニヤール村とは?

 クラスニヤール村は、ハバロフスク市から南に約210kmの地点に位置します。村までの交通網は発達しておらず、凸凹の悪路を車で行くこと約8時間、一行はようやくクラスニヤール村に到着しました。
 村の人口は700人弱。その大半がウデヘです。他にナナイ、ウリチなどのツングース系民族や、ロシア系も住む多民族村ですが、母国語をロシア語とし、民族間の混血も多く見られます。
 ウデへら先住民族たちが自然利用を行なうビキン川中上流域の森林地帯は約135万haと、日本の福島県にほぼ匹敵する広さ。その利用権を約40家族が分け合って、現在も狩猟採集活動を生業としており、その大半がこの村に住んでいます。

■今なお生活の中心を彩る伝統的な狩猟採集文化

 学生たちは一般家庭にホームステイしながら、課題別WGごとに分かれて現地調査を進めました。
 村の食卓には、ビキン川流域のタイガで獲れたシカやイノシシの肉、ビキン川で釣れたサケやイトウなどの魚、採集したキノコや薬草のほか、庭の畑で穫れたジャガイモやトマトなどの野菜が、バラエティ豊かに並びます。
 この村にも近代化の波が押し寄せているとはいえ、今もなお生活の中心を彩る伝統的な狩猟採集文化を肌で感じようと、学生たちは地元ハンターたちと一緒に、テリトリー内のタイガへ入りました。

■地元ハンターと一緒に、ビキン川流域タイガへ

 案内役のハンターたちの猟師小屋があるウリマ山基地までは、村からおよそ60km。ビキン川を、原動付小舟で約4時間かけて遡って行きます。
 ビキン川流域には、針葉樹(チョウセンゴヨウやエゾマツなど)と落葉広葉樹(クルミやナラなど)が混交する手付かずの森が広がり、アカシカやイノシシ、アムールトラのほか、ユーラシアカワウソやシマフクロウなどが生息しています。
 一行は、ハンターたちの案内で森の中を3時間ほど歩きながら、植生や腐植土、野生動物の痕跡などを観察。村の主力産品であるクロテンなどの毛皮獣を傷つけずに捕るための罠猟や、ヌタ場や水場に来るイノシシやアカシカなど食用獣の待ち伏せ猟、チョウセンニンジンやエゾウコギといった薬剤原料など、伝統的な狩猟採集技術についてハンターから説明を受けました。

【写真=左】野生動物や森林の生態を熟知した様々な伝統的狩猟採集技術がハンターから紹介された。写真は、塩場に塩を舐めにくるシカを待ち伏せするためのやぐら。
【写真=右】タイガで獲れたアカシカを料理する村の人。

【写真=下】チョウセンゴヨウ(ベニマツ)。チョウセンゴヨウは、その実を食物とするリスなどの草食動物、その草食動物を捕食するクロテンなどの毛皮獣やアカシカなどの食料獣の数に影響するため、村の人々は生活の基盤としてチョウセンゴヨウを残そうとしている。
 一方、チョウセンゴヨウは木材としての価値も高い樹木のため、ロシア沿海地方のチョウセンゴヨウは、日本を始めとする周辺国に輸出するために旧ソ連によって伐採され、20世紀後半の50年間で約50%減少した。
 森林伐採によってタイガが失われることは、伝統的な自然利用の生活基盤を村の人々が失うことを意味している。

■タイガで地元ハンターの話を聞く

 タイガの自然と、先住民族の伝統的狩猟技術を間近に見て、タイガの肉や魚を味わった後は、地元ハンターへの質問時間が設けられました。先住民族の狩猟や権利、伝統文化など、学生からの様々な質問に対して、ハンターたちは和やかな雰囲気で応じてくれました。
 若手ハンターのワーニャさん(29)は、11歳の頃、たった一人で200kg級のシカを仕留め、一人前のハンターになったと言います。彼らにとってタイガとは「肉と魚を与えてくれ、いずれは自分の子どもも食わせてくれる。崇拝する対象だ」と語っていました。
 タイガの現地調査と地元ハンターたちへのインタビューを通じて、タイガの自然と、その恵みを享受して生活する先住民族との密なつながりを、学生たちは肌で感じたようすでした。


クラスニヤール村実習②(ヒアリング調査・プレゼンテーション)

 では、現地の人々は現状をどのように捉えているのでしょうか。学生たちは、クラスニヤール村の役場や先住少数民族共同体、学校や博物館などを訪問し、村人たちへのヒアリング調査を行いました。

■村役場を訪問し、村の状況について聞く

 まずは村役場を訪問し、元村長のアレクセイ・ウザさんと専門課のタティアナ・スンディガさんから、村の概要や現状を聞きました。
1.村の主力産業
 村には、株式会社が一つ、先住少数民族共同体が三つ、学校と幼稚園、村役場、病院、売店、郵便局、博物館があります。生業の柱は、クロテンやリスなどの毛皮獣、木の実やキノコ、蜂蜜など。しかし旧ソ連時代は国家によって確保されていた販売ルートが、社会主義体制崩壊後は閉ざされ、自力販売が求められるようになった製品も少なくありません。
2.電力が安定して欲しい
 村では、ディーゼル発電機3台による発電を、村唯一の株式会社「ビキン」が担当しています。昔は100kWの電力で十分でしたが、近年テレビや冷蔵庫などの家電製品が増えたため、今は300kWでも足りないと言います。一方、燃料価格は年々高騰。自然エネルギーなど他の発電方法も検討したものの、予算がなく難しいのが現状です。
3.村にはお金がない
 「道路が舗装されていないせいで、輸送コストが余計にかかる。だから品物は何でも高い。けれども道路を舗装するお金がない。政府からの補助金の支払いも遅れている」とウザさんは嘆きます。「木を切らないので、村にはお金がない。お金を稼ぐ最も手っ取り早い方法は木の伐採だ」と話します。
4.木材伐採業者との戦い
 旧ソ連崩壊で生活が苦しくなる中、やむを得ず、森林伐採を受け入れた先住民族のケースも少なくありません。ロシアでは土地や森林は国のものであり、ここビキン川流域においても、地方政府が大手企業に長期伐採権を供与するケースが毎年のように起こっています。そのたびにこの村の人々は立ち上がり、反対運動を続けていると言います。
5.世界遺産登録を目指して
 では木を切らないのは、そもそもなぜか。そう質問すると「タイガがなくなることは、私たちがなくなること。1950年代、タイガを伐採したウデへは、森もウデへもなくなった」とウザさんは答えました。この村の人々は今、タイガをなくさないために、世界遺産登録を目指して活動を進めているそうです。

■森林権管理を行う先住少数民族共同体「ティーグル」を訪問

 自然利用とその管理、ウデへ文化の保全を担う先住少数民族共同体「ティーグル」では、狩猟管理補佐官のアレクセイ・クドリヤツェフさんから組織の現状と課題について話を聞きました。
◇先住少数民族共同体「ティーグル」とは?
 ティーグルは、ソ連時代にクロテンの毛皮や薬草などを販売していた国家狩猟組合を前身とし、1993年に少数民族の権利に関する法律が制定されたことを受け、2003年に設立された地元先住民族の組織(オプシーナ)です。
 ティーグルには、主に45〜50歳のハンター約170人が所属しており、自然利用を行なっているビギン川中上流域の森林地帯(約135万ha)は極東一の面積を誇ります。このうち、沿海地方政府から「伝統的自然利用テリトリー(TTP)」指定を受けているのは、中流域の約46万haのみです。
◇保存と発展のために連邦TTP成立を希望
 課題は「森林や金などの資源と、ウデへの伝統文化を、保存しつつ発展させること」。しかし現在の地方政府認定TTPでは法的基盤が弱いため、ロシア連邦政府レベルのTTP認定を希望していると言います。連邦TTP成立は、世界遺産登録にむけた重要な手段の一つと考えているそうです。「連邦TTPが成立すれば、力と時間の要する伐採業者との戦いをやめて、ビキン川流域の保存と(観光と狩猟採集活動による)発展に力を注げる」とクドリヤツェフさんは強調していました。

■学校を訪問し、村の教育事情について聞く

 学校では、校長のガリーナ・カンチュガさんから、村の教育事情について、お話を伺いました。
 同校の生徒数は80人弱で、学費は無料。日本の小中学校に当たる9年生までが義務教育、さらに大学へ進学するには11年生を卒業する必要があるそうです。また同校では、WWFの支援で環境教育を実施し、子どもたちが森との関係を学んでいることなども紹介されました。

■村のミュージアムを見学

 このほか、WWF助成金により先住少数民族共同体「ティーグル」とWWFが設立・運営するミュージアムも見学。学生らはウデへの人々と交流しながら、先住民族の伝統文化や歴史について学びました。また、民族玩具など土産物の製作販売の現場も視察しました。

■村人への「サステナブルデザイン」プレゼンテーション

 村の抱える課題についてWGごとに現地調査を行った学生たちは、調査結果を踏また上で、自然や伝統文化を守りながら生活を豊かにするための活動を提案する企画を「ビキン川流域のサステナブルデザイン」として、村人たちにプレゼンテーションしました。
 発表では、ロシア語でアンケートやプレゼンテーションの資料を準備するなど、学生たちが村人の意見を取り入れながら現状を正しく把握しようとする姿勢が見られました。
 聞き手は、学校の先生や元村長、ホームステイ先の家族などでした。発表の途中で電気が落ちるハプニングもありましたが、村人たちは各WGのプレゼンテーションを真剣な面持ちで聞いていました。最後に村人からは「皆さんのおかげで大変勉強になりました。私たちの問題に関心を持ってくれて、ありがとう」と感謝の気持ちが述べられました。



日露若手研究者実践会合(ロシア極東連邦大学)

 クラスニヤール村を後にした一行は、ウラジオストクへ飛び、ロシア極東連邦大学を訪れました。極東地方にある4つの大学が統一され誕生したばかりの同大学を会場に、ロシア極東連邦大学と東北大学の学生による実践会合が、「北東アジア地域における自然資源管理問題」をテーマに、9月29日から10月1日の日程で開催されました。

■ロシア人研究者・環境ジャーナリストによる講演会

 29日は、ロシア若手研究者による講演が行われました。まず極東連邦大学科学革新副学長代行のシェカ・オレグさんが、同大学の主要研究分野を紹介した後、ウラジオストクの気候変化と日常生活への影響について講演しました。
 次に、ロシア科学アカデミー極東支部 太平洋地理研究所のマヨロバ・リュボーフィさん(生物学修士)が「ロシア極東における森林開発動向」と題して講演。ロシア極東の森林の特徴や森林伐採・火災との関係性を詳しく解説しました。
 続いて、極東連邦大学大学院2年生のオグネバ・バレリアさん(地域経済専攻)から「沿海地方におけるエコ観光発展の主要傾向」と題した講演があり、エコツーリズムの原理や沿海地方のエコ観光の可能性などが話されました。
 30日は、環境保護運動に取組むロシア人環境ジャーナリストで、今年度の国連「フォレストヒーローズ」受賞者のレベデフ・アナトリーさん(地域社会会社局局長)による講演会が「25年にわたる極東アマゾンであるビキン川原始林の保全のための争い」と題して行われました。

■日露共同WG学習(ディスカッション+解決策作成)とグループ発表会

 講演会に次いで、4名の東北大学の学生から各課題別WG議論テーマについて英語発表があった後、ロシア極東連邦大学と東北大学の学生による課題別共同WG学習が行われ、英語・日本語・ロシア語が飛び交う、熱心な議論が繰り広げられました。クラスニヤール村出身で極東連邦大学を卒業し、現在はウラジオストク在住のダリア・ジュラヴリョーワさんも会場に駆けつけ、このディスカッションに加わりました。日露学生共同で議論した結果は課題解決策として、各WGの代表者によって発表されました。


 言語や文化の壁もあり、異なる立場の者同士が意思疎通して合意形成を図ることの難しさを学生たちは肌で感じていたようですが、日露どちらの学生にも、その根本には「原始林と先住民族の伝統的な生活を壊さずに保全すべき」という考え方のベースが共通してあったようです。
 学生自身が問題を主体的に捉え、解決の糸口を共に探る。現実的にはこうした問題点はサイエンスだけでは解決できません。研究と政治、経済などとの関係、宗教や権利問題など様々な要素が、自然環境に立ちはだかる実体を、学生自身が肌で考えた実習となりました。このような経験の一つひとつが、持続的社会を構築する指導的役割を担う人材を育成する重要なステップとなるでしょう。


「ビキン川流域サステナブルデザイン」企画書(要旨)・感想

 以上の実習の成果は、「ビキン川流域サステナブルデザイン」の企画書に反映されました。各課題別WGの企画書(要旨)ならびに感想については、下記ページからご覧ください。

WG1: 天然資源管理に関する権利問題
WG2: クラスニヤール村における電力事情とマイクロ水力発電の導入可能性
WG3: タイガの森林保全を絡めたエコツアー企画
WG4: ゴミ処理もしくは排泄物処理の解決-気候風土に適した処理方法について



全体総括(担当者インタビュー)

1.岸和幸さん(タイガの森フォーラム/事業企画担当)

―「サステナブルデザイン」の評価ポイントは?

 本実習におけるサステナブルデザインは、(1)WGごとの課題に対する事前調査(2)現地ステークホルダー(村の住民や行政・組合、研究者など)へのインタビューと現場(タイガ)の体感(3)ロシアの同世代の学生たちと情報を共有し共に問題解決策を探り、サステナブルなビジネスモデルを描く、の3フェーズで進められました。
 この進め方に対して、(1)事前に幅広く情報収集した上で、課題の最適解と思えるアイディアを持つこと(2)現地のステークホルダーの生活や伝統文化、現在の抱える問題・壁などを理解した上で、共感に基づくコミュニケーションを通して、潜在顧客を研究し、ニーズと問題点を明らかにできたか(3)ロシア人学生たちとアイディアを共有し、双方が持つリソース(知見や研究内容、ネットワークなど)を活かして、最適で具体的なアイディア創出からサステナブルなビジネスモデルを描くことができたか、が評価のポイントです。
 特に、コストの算出(初期、ランニング)と資金の調達方法(①助成金②投資や寄付③事業活動)、事業を進める上で最適なパートナー、をアイディアの中でどれだけ盛り込めるかが大事です。③事業活動による資金調達については、眠っている地域資源(ヒト=人財・組織、モノ=薬草や蜂蜜など)を顕在化させ、お金につなげられる現実的な仕組みづくりをどこまでデザインできるかが重要です。

―そのポイントを踏まえ、本実習の評価と課題は?

 事前調査においては、ロシア極東のタイガや先住民の現地情報が限られている中で、WGごとに問題の原因を探りつつ課題解決のアイディアを出すことができたようです。(2)現地でのインタビューについて、事前に用意した質問の答えは、相手からある程度得られたようでした。やりとりを通して新たな疑問や不明点を見つけ、アイディアを生み出す体験ができたことは貴重でしょう。(3)ロシア人学生とのディスカッションでは、テーマによっては議論の入口で細かな法規制の理解や現地状況を相手に理解してもらうのに、少し手こずったグループもあったようですね。単に情報を相手に届けるだけでなく、その問題をどのように興味を持ってもらえるか、相手の関心を引き出すためのコミュニケーション力が求められます。相手が面白さを感じれば、次の段階に移ることができ、現在持っているリソースやネットワークをどうつなげるかを考え、様々なアイディアが創出されます。
 学生の皆さんと話をしていて、普段は相手の巻き込みまでを意識したコミュニケーションはしていないようですが、本実習を通して体感したことをぜひ今後使ってほしいですね。上記の3フェーズを主体的に楽しんで行えたかどうか個人差は様々あると思いますが、いずれにしても大きな経験になったのではないでしょうか。

―本実習を踏まえ、学生たちに期待することは?

 今後、様々な人達と研究や仕事を協力して行う上で大切なコミュニケーション力とは、目的を共に達成しようという気持ちを共有できる力、すなわち「人を動かす力」、「巻き込む力」だと思います。今回のサステナブルデザインでの体験を通じて、その難しさと大切さを感じてもらえたことと思います。
 学生の皆さんの研究テーマは、顕在的なつながりでいえば今現在起きている社会問題とはなかなかつながりにくいものもあります。けれども、つなげようとする意識を持つことが、自分のネットワークを広げ、研究テーマ発展の可能性を広げ、社会と自分にとって意義あるものにつながるでしょう。そのように素敵な人財が増えて、持続性ある社会を目指した共創活動がどんどん起きてくることを期待しています。


2.野口栄一郎さん(タイガの森フォーラム/現地担当)

―本実習に対する学生への期待と成果、メッセージをお願いします。

◇ウデへの人々の誇り、刺激、励みに
 今回のように大勢の大学生・研究者が現地を訪れ、タイガや村の素晴らしさと問題を村人に伝えるのは初めての取組みです。学術的視点からも興味深く貴重な森であることは、ウデへの猟師たちにとって、自分たちが猟師であること・タイガを残すことに対する誇りにつながるでしょう。またゴミなどの問題は、私たち数人が提起するより良い刺激になり、村人達が問題を考えるよいきっかけになったと思います。
 ウデへ族は、ロシア人口1億4千万人のうち千数百人のマイノリティ。同じような顔をした日本人が、自分たちの村やビキン川について関心を持ってくれることは、ウデへの人々にとっても嬉しく、励みになることです。
◇国同士のつながりは、人同士のつながり
 ロシアについての情報は少ないですが、来てみれば意外とロシアは馴染みやすい国です。そこまで危険でもなく、食べ物も美味く人情もあり、日本に興味を持つロシア人も多いです。これまでロシアと日本の間に、資源や経済的な交流はありました。しかしそれ以前に国と国のつながりは、究極的には人間同士のつながりです。
 今回何よりの成果は、極東連邦大学のロシア人学生と東北大学の日本人学生、クラスニヤール村出身ウデへのダリアさんら若い世代で、タイガやビキン川に関する対話が初めて実現されたことです。これは期待を超える成果で、素晴らしいことです。今後もお互いに興味を持てば、今はITも活用してコミュニケートできます。この2日間は終わりではなく、始まりなのです。
◇社会主義と資本主義
 発展途上国ではない代わりに、社会主義国だったロシア。この国の環境・社会問題の特色として、社会主義国だったから壊された自然もあるし、守られた自然もあります。社会主義国だったから不便だが、残された人情もあります。社会主義も資本主義も自然は壊しますが、ビキン川流域のタイガが今、危機にさらされている原因は、経済の仕組みにあります。
 70年間続いた社会主義の崩壊後、経済が自由化され、人々は翻弄されながらも、激動の中をくぐり抜けて生きてきました。そんな国に訪れた体験が、これから皆さんが何かを考える上でヒントになれば良いと思っています。
◇東北大生へのメッセージ
 「タイガの森フォーラム」は、ロシアの森林地帯を地元の人達・科学者・NGOと一緒に守ろうという協働のプラットフォーム。タイガの保護区登録やゴミ問題の解決にむけて、あなたが何か貢献できると思うなら、ぜひ自由に仲間に加わってください。学術的な視点・発想で僕らとは違ったことができるはずです。森を未来に残すためには、僕らが発見できなかったことを発見し、活躍できる人が必要なのです。
 世界中で様々な問題が起こる中、ビキン川流域を選んでくれて、ありがとう。今回、皆さんと一緒に新鮮な気持ちでビキン川の自然を見ることができました。また一緒に行こう!スパシーバ!守りたいものを守るには、毎日を冒険的に生きましょう。


3.占部城太郎さん(東北大学教授/実習担当)

―実習担当者として、全体の総括をお願いします。

 まず、大きな事故や怪我もなく無事帰国できて何よりです。ロシア極東に関する事前情報はほとんどなかった中、実際に訪れたことで、ロシアの体制や少数民族について理解することができました。
◇現場を実際に訪れ、相互理解深まった
 個人的に言えば、ロシアは隣国にもかかわらず、どんな自然があり、どんな環境問題があり、どんな人々が生活しているか、全く知りませんでした。今回それが自分の目前に広がり意識するようになったことで、相互理解を深めることができました。クラスニヤール村の人々の暮らしをホームステイで実体験できたことも大きい経験でした。本を読んだり話を聞いたりするだけではわからない、言葉では表現できない経験ができました。ロシアは敷居の高い国と思っていましたが、少数民族やロシア人研究者は、我々と変わらない目線を持っていることもよくわかりました。もっと深く交流しようという気持ちが、今まで以上に強く芽生えました。同じことは学生にも言えるのではないでしょうか。
◇各課題別WGに対する評価
 次に各課題別WGに対する評価ですが、①WG1は、天然資源の入山権や遊漁券といった日本では認められている権利が、ロシアでは十分に整備されていない点を浮き彫りにできた点を評価できるでしょう。②WG2のエネルギー確保問題は難しいテーマ。マイクロ水力発電に対する反応は現地で芳しくなかったようですが、現地の電力事情を理解できたことが次につながると思います。③WG3の具体的提案にまで結びついていない点はこれからです。インフラやホテルなどハード面の整備とは別に、ガイドや土産物などソフト面の提案があっても良かったのではないでしょうか。④WG4は、地元の人たちが自分たちの問題を解決する意識付けが重要というアプローチが良かったです。なぜ?を掘り下げなければ、根本的な解決にはつながりません。具体的なアプローチや同じ土俵に立って寄り添う目線を大切にした点を評価できます。
◇同じ目線で考える土台の大切さ学ぶ
 彼らと同じ目線に立ち、保全しながら、経済的にも持続性を高めるためには何ができるだろうか。同じ目線に立って考える土台をつくる大切さを意識できたことが、学生たちにとっても大変良い経験となった実習でした。では次に具体的にはどうすればよいか、ぜひ参加した個々人に考えてもらいたいと思います。
 最後になりましたが、事前準備から本実習にご協力いただいた「タイガの森フォーラム」の皆さんの尽力と熱意に心から感謝します。NPO・NGOと大学の連携による人材育成の良いモデルケースになりました。今後も良いケーススタディをつくっていきたいと思います。


(取材・写真・文責:大草芳江/有限会社 FIELD AND NETWORK)